真空計の故障とその主な原因
真空計は実験装置において欠かせない重要機器ですが、使用条件を誤ると簡単に故障してしまう繊細な装置でもあります。特に、対応していない圧力領域での使用は要注意です。
熱陰極電離真空計が壊れやすい理由
熱陰極電離真空計は、中高真空以上の領域でとても良い精度で使用できるゲージでとても人気があります。ホットカソードゲージやB-Aゲージと呼ばれ、高真空域で非常に高精度な測定が可能な反面、最も壊れやすい真空計の一つです。その原因は、内部に使われている高温のフィラメントにあります。
故障メカニズム:
- フィラメントが約1000℃以上で発熱し、熱電子を放出して気体分子をイオン化する仕組み
- ターボ分子ポンプの停止などで真空度が悪化すると、酸素などがフィラメントに付着し、酸化膜を形成
- 結果的に、フィラメントが焼き切れて故障
よくある事故例:
- 停電で排気が止まったまま電源が入り続けていた
- システムの立ち上げ時にうっかり電源を入れてしまった → このようなケースでは、フィラメントが焼損して使用不能になります。
他の真空計の特徴と故障リスク
真空計 | 対応真空度 | 故障頻度 | 特徴 |
---|---|---|---|
熱陰極電離真空計 | 10⁻² ~ 10⁻⁸ Pa | 中 | 高真空用。高精度測定。ホットカソードゲージやB-Aゲージともいう。フィラメント焼損リスク大。最も壊れやすい。 |
冷陰極電離真空計 | 10⁻² ~ 10⁻⁷ Pa | 低 | 高真空用。イオンポンプと同じ原理。コールドカソードゲージともいう。陰極を研磨すれば再利用可能。フィラメントなしで丈夫。 |
ピラニゲージ | 10⁵ ~ 10⁻¹ Pa | 低 | 中〜粗真空用。フィラメント式だが太く丈夫。 |
隔膜真空計 | 10⁵ ~ 10⁻³ Pa | 低 | 高精度。ガス種に依存しにくい。微小圧力の測定に強く、定量性が高い。 |
熱陰極電離真空計と冷陰極電離真空計の比較
比較項目 | 熱陰極電離真空計 | 冷陰極電離真空計 |
---|---|---|
測定原理 | フィラメントによる熱電子放出 → イオン化 | 高電圧による放電 → イオン化 |
測定精度 | 高精度(±15%程度) | やや低い(±30%程度) |
測定範囲 | ~10⁻⁸ Pa程度 | ~10⁻⁷ Pa程度 |
フィラメント | あり(焼損リスク大) | なし(堅牢) |
再使用性 | 一度焼損すると交換 | 陰極の清掃で再利用可 |
「真空計が壊れる」の意味
「真空計が壊れる」という表現には、次の2通りの意味があります。
1. 計測器本体の故障
→ 通信できない、表示されないなどの電子系トラブル
2. 検出部(センサー、通称”玉”)の故障
→ フィラメント切れ、振動子破損、陰極汚れなど
🎓 実務上では②の”検出部がダメになった”が多いが、「壊れた」とひとくくりに表現されがちです。
実験現場での教訓
- B-Aゲージは使う前に真空度を必ず確認すること!
- 「検出部」は消耗品という意識を持つこと
まとめ
- 真空計の特長をよく理解し、適正な使用を行うことが大切。