失敗事例 #15
「レンチをぶつけてベローズ損傷してしまった話」
0. 教訓
薄肉部品の周辺作業では「二丁掛け」と「保護カバー」を徹底せよ。一瞬の油断が数週間の遅延と信頼失墜を招く。
1. 事例内容
どんな現場だった?
- 装置:小型真空チャンバー(研究開発用途)
- 作業内容:輸送後、チャンバーと配管の間にベローズ(NW50×200 mm)を組み込み、ボルトでフランジを締結
- 作業者:入社1年目の新人Aさん(監督者は3 mほど離れた場所で別作業中)
何が起きた?
締付用のスパナを掛け替える際、「保持しているはず」のナット側モンキーレンチごと一緒に回してしまい、薄肉ベローズにレンチが接触。蛇腹部に凹みが発生。その時のリークテストでは問題なかったため作業完了と報告したが、翌日のリークテストで真空が落ちず、原因調査で発覚した。
失敗した人の声
「狭いスペースで作業していて、保持レンチがしっかり固定されていると思い込んでいました。スパナを掛け替える時に、まさか保持側も一緒に回るとは思わず、ガツンという音と共にベローズにレンチが当たってしまいました。」
「その瞬間、血の気が引きました。ベローズに小さな凹みができているのが見えて、でもリークテストでは異常なしだったので『大丈夫だろう』と自分に言い聞かせました。翌日の報告で『真空が落ちない』と聞いた時、もう頭が真っ白になりました。」
「結果的に8週間の遅延と10万円の損失、そして顧客の信頼を失うことになり、自分の一瞬の油断がどれだけ大きな影響を与えるかを痛感しました。今では『見えないところほど丁寧に』を心がけ、必ず二丁掛けと目視確認を怠らないようにしています。」
2. 原因
直接原因
- 視認性の悪さ:狭い背面スペースでベローズが目視しづらかった
- 工具管理不足:保持レンチに落下防止紐は付いていたが「回り止め」用の2本目のスパナを使わず片手で作業
背景要因
背景 |
具体例 |
教育不足 |
ベローズは薄肉でキズに弱いこと、納期が長いことを実習で体感していなかった |
時間プレッシャー |
輸送後すぐ立上げるスケジュールで「早く終わらせたい」空気 |
作業手順書の欠落 |
「保持レンチ必須」「ベローズとナットの間の遮へい板推奨」が手順書に明記されていなかった |
3. 影響・被害
- 交換用ベローズのリードタイム8週間 → 試験計画が全て後ろ倒し
- 追加コスト約 10 万円(部品・送料・再立上げ人件費)
- 顧客立会い試験を延期 → 信用ダウン・社内報告書の提出
4. 防止策
- “二丁掛け”の徹底:回す側と保持側の2本のレンチを必ず使用。片手作業禁止。保持レンチに赤いタグを付け「回すな!」を視覚化
- ベローズ保護カバー (φ80 mm ポリエチレン筒 0.5 mm厚) の常備
- トルクレンチ使用
- 作業前にベローズ位置を確認しやすいレイアウトに変更
- 新人教育:ベローズサンプルを実際に破ってみせる”ハンズオン講習”
5. 再発防止チェックリスト
- ✅ 工具確認:保持レンチに落下防止&回り止めタグを装着したか?
- ✅ 位置確認:工具可動域にベローズが入っていないか目視確認したか?
- ✅ 作業方法:二丁掛けで作業を実施したか?
- ✅ トルク管理:規定トルク値を読み上げ確認したか?
- ✅ 最終確認:締結後、蛇腹部を指触・目視し異物・キズがないか確認したか?
- ✅ 保護対策:ベローズ保護カバーを適切に配置したか?
- ✅ 環境整備:作業エリアの照明と視認性は十分か?
6. 補足
新人へのメッセージ:ベローズは 「薄い缶コーヒーのアルミより脆い」 と思ってください。体が覚えるまでは”レンチ2本””必ず目視”を唱えながら作業するクセをつけましょう。1回の油断が数週間の遅延と信頼失墜につながります。 “見えないところほど丁寧に”──これがプロへの第一歩です。